「飢えた海」ウィルパー・スミス 著
この業界の事情に詳しい方からお話をお聞きすると、海難が発生すると見積り依頼もしていないのに何社ものサルベージ業者が勝手に調査し積極的に営業活動をしてくるという。
深田サルベージ、日本サルベージなど日本の大手会社の名は知っているが、ボクは外国のサルベージ会社などまったく知らない。でもオープンなサルベージ工事の入札では北欧のバイキングの末裔を思わせる髭もじゃの大男が率いる会社が落札したこともあったらしい。
日本のサルベージ会社は組織で動く「マリコン」で欧米は伝統的なサルベージ業だね、とかいろいろお話を聞いていると突然、昔読んだ海洋冒険小説ウィルパー・スミスの「飢えた海」を思い出した。
それには、南極のウエッデル海から全船舶向けに救助要請を発したアドベンチャーツアーの豪華客船を救助に向かう2隻の外洋サルベージ・ダグと船主との駆け引きが描かれている。その中に大きなリスクに賭ける主人公の船主船長がロイズ・オープン方式の「救助なくして、報酬なし!」という困難なサルベージに挑もうとする。
そして、船長の「エンジン始動」の声にオフィサー達の顔が邪悪な喜びに輝き、彼らは分捕り品を見越して舌なめずりする昔の海賊を彷彿とさせた。という情景になる・・・。
ロイズオープン方式とは、遭難した船舶を救助し指定された港へ曳航し修理業者に引き渡すまでを行い、その貨物と船価をロイズが裁定しその20%を受け取るというものだ。また報酬の半分はクルーで分配する。ただしサルベージに失敗すれば全く報酬はない。
物語は南極の極寒の岬で座礁した客船を引き出す困難で難しい仕事でロイズ・オープン方式ではリスクの非常に高いサルベージなのだ。
サルベージ・ダグは漂流中ならばロイズ・オープン方式を、座礁などリスクが高いものは日雇い契約が有利だが船主側はその反対である。
人命が危険に瀕しているときなど緊急の場合は船長が船会社の判断を仰ぐことなくサルベージ契約を結ぶことができる。当然救助するサルベージ・タグに有利な方式を提案するだろう。その為にダグの船長はいろんな仕掛けを用意する。
一、救助要請があってもすぐに無線応答しないで船長をじらす。
二、遭難船と出会うときは出来るだけ派手にする。昼間は多くの旗をかざし、夜間はきらびやかな電光で飾り印象的に現れる。
三、現場にライバルがいる特はより信頼されるフォルムや高機能イメージが有効なので設計段階からしっかりと盛り込む。。
この物語の為に設定されたサルベージ・タグがすごいスペックなのだ。
高く張り出した鋭いバウと均整の取れたフォルムは軍艦のようで、型鋼と強化ガラスで造られた上部構造物、優美なウイング。タンカー火災にも対応する高性能な放水砲と防火構造のアッパーデッキとハル。主機はディーゼル11,000PS×2の合計22,000PSの高出力で2軸の可変ピッチプロペラを駆動している。速力は荒天でも28ktは確保できる。
どんな船だろうかと想像してみると、全長:91m、排水量:1,470トン、出力:22,500PS、速力:25KtのDE「いしかり」クラスに匹敵するのかと思うが船種が違うのでさぁどうだろう。参考に日本の外洋タグの画像を下につけてみた。
総トン数:2,096トン
船 長:86m
機 関:5,000PS×2
最大速力:18Kt
航続距離:22,000浬
裏表紙にごく簡単な本の内容紹介がある。
ニック・バーグは打ちのめされた。華々しい業績をあげる海運会社の会長から、一介のサルベージ・ダグの船長へ。再起を図ろうとしたその矢先、南氷洋で座礁した豪華客船から救助要請が発せられる。船主は彼を失脚させ、最愛の妻や息子まで奪い取った宿敵。荒れ狂う氷の海を命がけの救出に向かうニックに復讐の野望が燃え上がる
物語の後半、カリブ海の猛烈なハリケーンのなか高カドミ原油を積んだ100万トンタンカーの危険なサルベージにも挑む・・・。
分厚い文庫本だが大変面白く読み終わった。お勧め出来そうですね。
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by pac3jp | 2008-08-22 15:03 | 本