ハーバーウオッチング
向い側桟橋の先端バースでは最近新艇を買った新オーナーが慎重過ぎる着岸作業をしている。数バース隣のヨットがサンセットセーリングに出てゆく。「ベテラン連に見送られて出て行くのは緊張するね」と言いながら出て行った。
次々とフネが帰ってくる。静かに入ってくるヨットもあるが、札付きのレーサータイプのヨットは機走でも速く走りたいのか、狭い水路でも引き波を立てて帰ってくる。少し前まではここにも「うるさ型」がいて怒鳴っていたが、今は誰もが本人の自覚に任せているようだ。
見晴らしのいい場所で見ていると何でもよく見える。このハーバーがある西宮港付近は午後2時から4時頃まで強い西風が吹くことが多い。皆さんが丁度セーリングが終わりハーバーに帰ってくる時間だ。新米なのか、あるいは自艇に不慣れなのか、その風に煽られて上手く着岸できないヨットがいる。桟橋に当てたり、他艇に吹き寄せられて焦っているのまでよく見える。
今日一緒にお喋りしている仲間も昔々、このヨットのオーナーからその操船振りを見られて、余程見かねたのか「下手やなぁ、ヨット初めてかぁ」と声を掛けられて以来、今日までお付き合いは続いている。
世話好きなここのオーナーは、教えて欲しいと頼まれたら断れないお人柄である。門人は引きもきらないが、免許皆伝を宣言しても離れてくれないのは困ると口ではおっしゃてはいるが、大勢で賑やかにやるのが大好きなのかもしれない。 多分好きだ(ボクが断定)
赤く大きな夕日が西六甲に沈み、夕闇がスカイラインを隠し始めるのを見ながらボトルを傾けた事もあるが、まだ日暮までは時間がある。
昔仲間でレーシングヨットの世界に行った彼の新艇の噂話が出る・・・「よもやま話」は尽きない。これはヨット乗り達のスピン・ナ・ヤーンだろうね。
スピン・ナ・ヤーン とは・・・
ヤーンはロープを構成する一番細い撚りひものことで、ヤーンを沢山撚り束ねてストランドになり、3本のストランドを撚り合わせてロープが出来る。帆船時代のロープはみな麻などの天然繊維だった。手入れには随分気を使っていたけれども年月がたつと朽ちて弱くなる。そこで古いロープをほぐして、まだ健全な繊維だけを取り出し、それを指先で撚ってヤーンを作った。それを合わせてストランドにし、さらにそれを撚り合せて雑用のロープにする。軽風のいい日和の暇つぶしの作業で、水夫たちはデッキの日だまりなどにたむろしてこの仕事をする。冗談やら身の上話やら作り話やら、よもやま話がいつまでも続く。作業の性質上、終わるところがない。転じて長々と続く、ホラまじりの無駄話をヤーンと言うようになった。ヤーンを紡ぐのだから、そんな話を続けるのがスピン・ナ・ヤーン。
野本謙作著 スピン・ナ・ヤーン より
by pac3jp | 2006-05-31 10:30 | ウオッチング