わが長州砲流離譚 古川薫著

c0041039_945331.jpg 日本で初めて外国の軍艦と交戦したことによって各国の戦史に刻み付けられた長州の青銅砲。100年もの間、日本人から忘れられていたその歴史的記念物を長く捜し求めていた著者が1966年にパリで発見した。そして山口県出身の故安倍晋太郎外相のもとで、フランスからの長州砲返還運動を展開し、さらに残る3カ国で長州砲を発見するまでの苦労の記録である。

 幕末(1863年)の関門海峡では幕府の攘夷宣言を待って長州藩がアメリカ商船、フランス軍艦、オランダ軍艦を次々と三十門の沿岸砲と4隻の軍艦で攻撃した。幕府は大いに困ったが京の朝廷からはお褒めの褒勅が下された。長州藩は大喜びだった。
 だがその喜びもつかの間、アメリカの軍艦が自国の商船を攻撃された報復にやってきた。長州の軍艦は沈没2、大破1。沿岸の砲台も殆どが沈黙させられた。そして4日後にはフランス軍艦2隻がまたもや報復にやってきた。壇ノ浦・前田砲台に艦砲射撃を集中し、砲台が沈黙すると陸戦隊が上陸してきた。長州藩も火縄銃や刀、槍、弓で反撃するが近代装備のフランス軍の圧倒的勝利に。救援部隊も軍艦からの援護砲撃が激しく退却を余儀なくされる。やがてフランス軍は砲台を占拠し破壊した。このように1回目の攘夷戦争は惨憺たる敗戦で終わった。

 惨敗したにも関わらず、長州藩に攘夷の意志は変わず、奇兵隊を組織し、兵力の増強に努めた。その間、長州の政治環境は大変緊張したものだったが海防のために新しく青銅砲をわずか1年の間に百十五門の大砲を作り上げた。勿論、原料の銅は領内の寺社の釣鐘、住民は銅火鉢・銅鍋・鏡まで供出し軍備の増強に協力したといわれている。

 諸外国は関門海峡の自由通行を実力での確保をはかるため「四国連合」が成立。1864年8月下関を攻撃するために連合艦隊を派遣した。下関沖に英・仏・蘭・米の四カ国からなる以下の連合艦隊が現れた。

イギリス 9隻 164門  2850名 うち陸戦隊 500名
フランス 3隻  64門  1155名
オランダ 4隻  56門   951名
アメリカ 1隻   4門    58名
 合計 17隻 288門 5014名

 十七隻の軍艦に積んだ二百八十八門のアームストロング砲と5014名の兵士が攻撃に参加した。これに対して長州側は百二十門の青銅砲と奇兵隊など2000人足らずの兵力で防備を固めていた。
 四日間にわたる大規模な闘いとなったが、戦闘のピークは6日の壇ノ浦砲台への敵前上陸だった。各国の陸戦隊、水兵、海兵隊ら2600人は猛烈な援護射撃のもと前田海岸に上陸した。長州藩も善戦したが戦力の差は遺憾ともしがたく長州軍は敗北した。外国軍艦の大砲は鉄製で内部に螺旋が切ってあるアームストロング砲、炸薬入り砲弾で射程は2000~3000m。一方青銅砲は先込め式で弾丸は砲丸だ。射程1000mとかなりの差がある。兵士の個人装備も刀、槍、弓、たまにマスケット銃を持つ長州兵はライフルで装備した外人兵士には敵わななかった。
 この戦いで長州軍18人、連合軍12人が戦死し、四国艦隊は4日間で2504発の砲弾を打ったと記録にある。

 講和談判が一段落すると連合艦隊はそれぞれが鹵獲(ろかく:戦いに勝って、敵の軍用品などをぶんどること)した戦利品を軍艦に積み込みて横浜へそして本国へと凱旋していった。その主な物は大砲で、その数は各種資料から百五十門とされる。



 さがし求めていた長州青銅砲が最初に見つかったのはパリのアンヴァリットだった。そこでは多くの大砲と一緒に屋外で展示されていた。そして1門が返還運動で長州に里帰りしてきたのだった。この攘夷戦争で一番多くの大砲を分捕ったのはイギリスだが、2門のみロンドンの大砲博物館の倉庫で粗末に扱われてゴロンと床に転がっていた。その他の大砲は第2次世界大戦のドイツ軍の空爆で多くが失われてしまったらしい。だが青銅砲をきちんと単独の鉄の砲架に乗せて保管していたのはアメリカだった。オランダは銀象嵌された砲口部分のみ国立美術館にあり、海軍資料館にはクルップ製の野砲が戦利品として綺麗に磨かれ展示してあったという。

 調査された各国は皆、兵器や軍事に関する博物館を多く持っているようだ。日本は各地の自衛隊に付属する資料館はあるが全体を纏める国の施設としては近隣諸国に気兼ねして作れないのだろうか。関西エリアには見当たらない。

 攘夷戦争とか下関戦争、馬関戦争など色いろいわれているが、久し振りに長州人が書いた本を読んで本当に面白かった。34年間における長州青銅砲探しを「虚仮の一念」と表現されているが何とも羨ましい思いだ。ボクもそんな「一念」が欲しかったなぁ~。
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by pac3jp | 2007-02-09 09:19 |  

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