海からのメッセージ 田久保雅巳著
著者の田久保さんはヨット雑誌「舵」の編集長をされている。表紙に 編集長の独り言 世界と日本の海洋レジャー事情のエッセンス、10年間にわたり連載された「巻頭言」厳選集とある。確かに毎回KAJI誌の巻頭にあった記事だ。道理で読んだ記憶もあった。
本を読んでみると、さすがに現役のヨットジャーナリストが書いたエッセイである。国内外の幅広い話題があり、その内容も素晴らしい。読み続けていくとボクもそのとおりだとうなずける意見も多い。
2003.12「フネの能力、人の能力」と題する一文がある。琵琶湖で起きたヨット転覆事故に関連してヨットの定員について書かれた文章である。
定員は小型船舶安全規則によると「検査機関が充分と認められる乾舷および復元性を保持できる最大限の乗船者の数」とある。近海以上の定員はバースの数以内、でも沿海以下は一人分の座席は幅、奥行きがそれぞれ40cm以上でその前面に30cm以上の空間があればよい。従って事故を起した21fのヨットに10名の定員を取る事は可能である。
法律ではそうであるがオーナーが実際に定員を取るときは、海上花火大会見物時に乗るゲストの最大人数も勘定に入れ、ライジャケや浮器の数と収納場所との兼ね合いで決まってくる。我艇の法定定員は8名だが最近の10年間で定員一杯に乗ったことはたったの2度だけである。何れもハーバー周辺のレースなどでゲストを数時間乗せただけであった。いずれ定員は4人にしても良いなと思っている。
ヨットの運用上での「定員」の考え方は昔からいろんな案があった。この本にも引用されているが、ヨットデザイナーの横山晃さんが昔、「舵」に書かれていた案は、乗員数を点数制で決める事を提唱された。「そのフネのベテランは2点。慣れている人は1点。他艇では経験があるがその艇では初めての乗る人は0.5点。未経験者は0点。ただ酔うだけの人はマイナス1点。子供はマイナス2点。それぞれが一人ずつ乗船していたとする。すると6人の合計は0.5点。沖に出るのは少なくとも1点以上が必要なため船検範囲内としても、沖に出るのは危険」という計算方法だ。
もう一つ。こちらは今でもベテランからよく耳にするので最もポピュラーな法則かもしれない。
「ヨットの耐航能力はフネの能力と、乗り組む人間の能力との総合力だ。6人で出港を考えたとして、その内2人が未経験者だとすると、その2人のために4人の能力は半減する。揺れる船上の初心者はその動き自体が危険。落水しないように、怪我をしないように経験者1人が初心者1人の面倒を見ることになる。だから乗員戦力は残りの2人。その戦力で変化する天候を乗り切ることができるか、最悪の状況でフネも人も耐えられるかを判断して、出港するか否かを決める。そのぐらい慎重に」という。
(参考)
右の画像はドイツのババリアヨットが指定したババリア34の定員と荷物の最大を記載したコクピットの表示プレート。
ボクのご近所ではゲスト満載で出港するヨットは少ないが、フネの大きさに不釣合いなほどFBに大勢の人が乗っているボートをハーバーで見かけることもある。
でも、オーナーあるいはスキッパーは自艇の「フネの能力、人の能力」をいつも考え、海の遊びを安全に楽しみたいものですね。
by pac3jp | 2006-10-16 09:15 | 本