セルフベイラー

 セルフベイラーは昔乗っていたディンギーのコックピットの底についていた。通常の状態では閉めていて、コックピットに水が入ってくるようスピードや海面になってくると船底に排水口を出し、船底に流れる水流の圧力差で自動的にコクピットの排水をするごく簡単な装置だった。閉じたときも完全な水密構造ではないので、微風のレース中ではセルフベーラーからの水漏れを気にする選手もいた。

c0041039_1112991.jpg 春先、5回目の小笠原クルージングを予定しているクルージングヨットにセルフベイラーを取り付けてセーリング中に船内に溜まるビルジを電力の消費なしで排出させようと計画しているオーナーがいた。
 外洋の嵐の大波がデッキに打ち込むとどこからとはなくビルジが入ってくる。いつ終わるとも知れないエンジンも回せない大時化の海でバッテリーや人力のビルジポンプでの排水には限度がある。自然の力には自然のエネルギーを使って対処しようと考えられたのだろうか。

 ヨットの船底や外板には浸水の可能性がある開口部は必要最小限しか付けないと考えているオーナーと全く反対の考え方だが、船体両舷の喫水線より少し上、少しヒールすれば水没するくらいの位置に排水口を開け、そこにカウルのようなカバーを付けた。勿論排水口には逆止弁が付いていてその開口部から浸水はしないようになっているし、もし入ってきても艇内に逆流する事はないように配管されているらしい。

 出航前にこの仕掛けを見た人は皆、その結果を聞きたがっていた。ボクもその一人だった。

 今年の4月はずっとお天気が安定しなかった。数日おきに天気が変り、彼も母島到着が予定の6日間よりも時化で2日近く余計に掛かったらしい。絶好のテスト条件だったねと聞いてみると、「大成功や」の声は聞こえず、どうも初期の目論見は外れたようで、原因はセルフベーラー効果が逆止弁を開放するだけのパワーがなかったらしい。

 このオーナーは新しい装備品を発想すると自分で工作し、ヨットに取り付け、外洋の小笠原航路で耐久テストをするのだ。そのようにしてエアコン、オルタネーター、リグ、マストまでテストし、そして改修、改造されてヨットは小笠原スペシャル艇になってきたのだが、まだまだその進化は止まらない。

 最近の彼は日除けをかけたコックピットで静かに文庫本を読んでいる。でも彼の胸の中は新しい発想が・・・いや、あのセルフベーラーシステムの解決策をあれこれと練っているはずだ。  きっとね。
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by pac3jp | 2006-09-04 11:20 | ヨットの艤装と艤装品  

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